「大阪・神戸・京都の沖積層に関するトピックス:ダイナミックな地層の解析から」
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▲増田富士雄(京都大学名誉教授) |
日 時: | 平成30年5月18日(金)14:00から15:30まで |
場 所: | 東京都千代田区二番町12-2 東京地学協会(地学会館)講堂 |
参加者数: | 19名 |
講演内容: |
大阪・神戸・京都の沖積層に対する解析から読み取ることができた地層の形成過程のなかから、次のような話題や出来事を紹介する。そこには地層に記録された過去のトピックスをダイナミックな視点から読み解こうとする地層学の面白さがある。
- 数時間で70~80cmの水深の上げ潮時の干潟上に降り積もった"鬼界アカホヤ火山灰層":潮汐堆積物とウェーブリップルの解析から(神戸市垂水)
- 泥干潟で堆積した"海成粘土層":これまで内湾底堆積物と考えられていた海進期の河内湾の泥層
- 堆積構造解析によるボーリングコアの地層区分(高槻市三島江):肉眼観察・粒度分析・CTスキャン画像解析を用いて
- 埋没段丘と低海面期の淀川(大阪平野・尼崎平野):滑らかな沖積層の基底面から識別できた埋没段丘と海進期の波食面
- 海進期に発達した海食崖・砂嘴システム(天満砂州・吹田砂州・和田岬):大阪湾の波浪や沿岸流がつくりだす堆積システムが特徴の沖積層
- 海岸線・底質・古水深が入った古地理図(大阪平野):新たな古地理を復元する試み
- 神戸三宮の標高約2 mの地点で発見された江戸時代の津波堆積物:大阪湾沿岸における初めての発見とその防災的意義
- 京都市南部巨椋池の湖沼デルタ流路・洪水流堆積物・人間活動の痕跡:地下に残るデルタ流路の追跡と,湖沼底堆積物に残る洪水流の不思議な構造
- 木津川の破堤堆積物と氾濫流路:破堤洪水タイプの河川がつくった旧河道ではない流路と自然堤防ではない堆積物
- 木津川流域でみられる天井川と"天地返し":人間による地形の改変や災害復旧の堆積物からみた作業過程
沖積層から堆積作用のイベント一つ一つを識別し、その拡がりや作用の進行を追うことでその記録を読むことが出来ること、さらにこの記録を活かせば、地質学と考古学や歴史学とがかみ合うことが、わかりやすく示された。例えば、深く耕し、耕地の表層と深層を入れ替える「天地返し」という人工作用が沖積層に記録されていることも目からウロコの話だったし、天井川を安定させるための堆積物に人為的な粘土ブロックが存在することなど、昔の人の知恵に驚きを覚えた。
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意見交換: |
会場: | イタリアでも天井川のようなものがあると聞いたが、英語圏でもそういう概念、用語があるのか。 |
演者: | 外国でも存在すると思いますが、詳しく知りません。日本ではraised bed river という用語、和製英語?が使われています。 |
会場: | 日本書紀に「難波碕に着こうとするとき、早い潮流があって大変早く着いた」という記述があり、この早い潮流というのが存在しうるのは、演者の古地形の復元によってどの時期であったかが推定できるのではないか。 |
演者: | 淀川が、いつ上町台地の延長部のどこを切ったかということについては、時期を特定するデータは得られていない。今回の解析ではその古代の記録が、ここで復元した地形とその後の変化で説明できると考えている。 |
会場: | 中国の黄河は大量の流送土砂を含んでいて、氾濫すると大きな堆積物の高まりを作り、しばしば別の川と認識されるほど流路を変更しているが、その時代変遷は分かっているのか。 |
演者: | 黄河の歴史的な流路変遷はよく知られている。ランドサットからデータを得られるようになってからでも流路の変遷が明確に捉えられている。 |
会場: | 上町断層は沖積時代も動いているのか。 |
演者: | 今回の地下地質の解析からは,いつ動いているかは判断できない。ただし、上町台地の地下に撓曲構造あり、それが台地の隆起だけでなく、その北側を流れる淀川の河床勾配にまで変化を与えているから、テクトニックな変動があったのは確かだといえる。 |
会場: | 神戸の津波堆積物とされたものは津波以外には考えられないか。 |
演者: | 津波による可能性が高いとしか言えない。堆積物そのものからは振動する流れが繰り返されたことしか断定できていない。そのほかの周囲の状況証拠からその可能性を指摘している。 |
会場: | スライドにあった氾濫流路における洪水による堆積物は、流木の向きでも分かる。根元が下流側に来る。 |
演者: | その通りで、この木津川の縄文時代の氾濫流路では、流木の配置による古流向がわかる典型的な例である。 |
会場: | 講演の中にあった、神戸の砂嘴の陸側の潟にみられる澪筋とはどれくらいの深さか。 |
演者: | 1.5メートル位だ。 |
会場: | 人工的な流路の付け替えは。泥層を切って(掘削して)行われることが多い。そのほうが、川筋(流路)が安定する。 |
演者: | 木津川流域の天井川では、講演で述べたように丘陵部末端の天井川の始まる部分で、流路が安定するように丘陵地の大阪層群の泥層に流路が堀りうがかれている。 |
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