あいさつ
公益社団法人 東京地学協会
会 長 斎 藤 靖 二
明治12(1879)年に創立された東京地学協会は、当初、探検記や外国事情を掲載する年報を発行していましたが、明治26(1893)年に地学会と合併し、地学の専門学術誌としての「地学雑誌」を引き継いでからは地学協会の活動も「地」を「読み」、「地」から「学ぶ」専門学術の発展・継承に貢献し、志向し、現在に至っております。公益社団法人としての本協会は、普及講演会や野外観察会などを通して、「地」を「学ぶ」ことの大事さ・面白さを広く語り合う活動も続けております。
地球の時空変遷がつくってきた大気・水・大地からなる自然、それから私たちは多くのことを学び、必要なものや現象を利用して生活を豊かにしてきました。しかし、自然は人間にとって都合よくできているわけではありません。ときに自然は容赦無く大きな災害をもたらすことがあります。
地震、津波、火山噴火、豪雨、洪水といった自然災害、大気汚染や海洋の酸性化などの環境変動、地球温暖化、水資源、金属・非金属の地下資源、石油・石炭・天然ガス・放射性物質などエネルギー資源、再生可能の自然エネルギーの活用など、社会的に話題となっている問題のほとんどは地学現象に関係しています。効率優先の市場原理のもとで、私たち 地学者はこれらに対してしばしば目先の処方箋のような解答を求められますが、地球の動態は人間や社会の都合や時間スケールに合わせて起こってはいません。自然の記録を解読し続けること、目先の現象の背後にある本質的に重要な「地」の原理の解明が何よりも大事で必要なことです。
ところが不思議なことに、地学や地理学は学校教育の中では軽んじられ、片隅に追いやられたかのようで、次代を担う若者たちが充分に学ぶ機会を持てる状況にはなっていません。地学現象による地質がつくる大地、気候や気象との関わりでできた多彩な地形、そこに生まれた多様な生態系、これらの自然を利用して人間は生活し、歴史を刻みながら、文化を創りあげてきました。生物の身体をつくるものも、地球物質であり、私たちの身体も例外ではありません。このようなことからみて、私たちが生命現象を理解し、自然と調和して生きていくには、「地」を「学ぶ」ことがいかに大事なことか理解できると思います。
本協会は、「地」を調べ、理解したことを共有し、次の世代に、さらにその先の世代へと伝えていくことに貢献したいと考えています。他の専門関連学会と協力しながら、地学の公益事業を継承・展開することに努めてまいります。そのためには、大学生や中高生向けに門戸を広げた活動も必要であろうし、これまでやってきた学術調査や国際的な研究集会への支援に加えて、地学関係の国際組織運営に関わっている方々への支援も必要であろうと考えております。地学に関心のある皆様に、ぜひご協力くださいますようお願いする次第です。