「最近のわが国の地熱発電の進展と持続可能な地熱発電技術」
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▲江原幸雄(地熱情報研究所代表・九州大学名誉教授) |
日 時: | 平成31年3月15日(金)14:00から15:30まで |
場 所: | 東京都千代田区二番町12-2 東京地学協会(地学会館)講堂 |
参加者数: | 25名 |
講演内容: |
日本は、多数の火山があり、地熱発電設備容量が2000万kWを超える、世界3位の地熱資源国である。しかし、従来国の消極的な政策のもと、利用は限定的で、現在、地熱発電設備容量は約50万kWで世界10位である。そのような中で、いわゆる3.11以降、国は地熱を含めた再生可能エネルギーの利用推進に転じ、地熱については2030年度までに現在の3倍、累積150万kWにするとしている。その結果、全国各所100カ所程度で、調査・発電所の建設が行われている。
それを進める上で、主要な課題は、①新たな探査手法を用いての新規開発地点の開拓、②事業環境の整備(自然公園(国立公園および国定公園)問題等)、③地域理解の促進(温泉問題等)の3点である。これらの課題解決の基礎として、地熱発電を安定して長期間(~300年)行うための「持続可能な地熱発電技術」が不可欠である。
その一例として、大分県九重町にある、わが国最大の九州電力八丁原地熱発電所(設備出力11万2000kW)では、重力変動観測に基づく地熱貯留層内の地熱流体質量収支の把握と、それらを裏付ける数値モデリングが行われている。この手法により、還元地域と生産地域における地下水量の変化をモニタリングしながら発電設備を稼働させ、長期間の安定した発電を実現することができている。その結果、経済性に大きく貢献し、また、温泉への影響を最小化し、さらに補充井の掘削も最小化できている。
なお、地熱エネルギーの利用は天然蒸気を使ったフラッシュ発電(図1)が主要なものであるが、80℃程度以上の低温熱水を用いたバイナリー発電も近年多数利用されるとともに(多くは小規模の温泉発電)、熱水そのものを利用する直接利用(この分野では、従来温泉利用が中心であったが、近年、農水産物の育成やそれを高付加価値化するのにも利用されている)も増加している。
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▲図1地熱発電システム(日本地熱開発企業協議会、2011) ※写真をクリックすると拡大表示します |
意見交換:講演後、会場と演者で次のような意見交換があった。
会場: | 数100キロワット程度のローカルな地熱発電の設備は、小規模なのか、また市販されているのか。 |
演者: | すでに市販されている(バイナリー発電機:10kW~数100kW)。80℃程度以上の高温水を発電に用い、少し冷えた温水を温泉として用いると合理的になる。 |
会場: | 発電とセットにすると温泉の開発が可能な場所が増える。 |
演者: | それが地域の発展につながる。 |
会場: | 2011.3.11の東日本大震災以降、地熱発電の気運が高まったが、その実現までに時間がかかることが講演を聴いてよくわかった。 地熱発電先進国といわれているニュージーランドの状況はどうか。 |
演者: | ニュージーランドの地熱発電は、近年急上昇したが、今は少し停滞している。ニュージーランドでは、地熱発電と水力発電で電力需要のほとんどが賄われており、今後大きな需要は存在しない。 地熱発電候補地の多くを所有している先住民のマオリ族は発電事業者と共同で地熱発電を行い、利益を上げてきており、共存共栄の関係にある。 |
会場: | 国立公園では地熱開発に関する制限があるのか。 |
演者: | 古くは自然公園内でも開発されていたが、1972年以降は規制が厳しくなった。それが、東日本大震災以降は規制が徐々に緩和され、一定の条件を満たせば、全自然公園の70%以上で開発が可能となった。ただし、現地の国立公園管理官には、規制緩和の考えが十分浸透していないこともあり、自然公園内で必ずしも地熱発電所の建設が大きくは進展していない。ただし、2019年以降、順次大規模発電所(万kW級)が運転開始予定である。 |
会場: | 国立公園の概念が問題だ。米国では一切手をつけない地域だとされている。米国のような考え方も重要と思う。 |
演者: | 日本の国立公園は、保護と利用を両立させる地域としている。米国のような規制中心の考え方を一度解除し、発電規制地域と発電可能地域とにゾーニングし、発電可能地域のみで地熱発電を行う形にすれば、自然環境に適応した持続可能な地熱発電が進展するだろう。 |
会場: | 現在の地熱発電関係者は、持続可能な期間を100~300年程度で考えているが、これでは本当に(永久に)持続することにはならない。 |
演者: | 当面ということである。たとえば地熱発電を100年続ければ、その間に様々な観測値も得られ、技術も進展するので、それを踏まえてより精緻な継続方策を検討することができるだろう。長期の予測は一般に困難だが、画期的な電力供給方法が将来見つかる可能性も十分あり得る。エネルギー問題への対処は、長期的かつ総合的になされるべきだろう(私見としては、将来的には、再生可能エネルギーのみで行かざるを得ないと思う。その際、特定の電力源に依存するのではなく、各発電方式(太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱)が10~20%程度シェアするのがリスク回避の観点から望ましいと思われる。 |
会場: | 利用した水を地中に還元することで持続を図るということだが、熱は消費されていくのではないか。 |
演者: | その問題は、状況を観測しながら発電することによって解決できる。還元水のかなりの部分が生産井に戻る場合は生産流体の温度・圧力が若干下がる場合もあるが(この場合は種々の対応が考えられる)、地熱発電所によっては、発電に伴って地下から失われた熱と水は、還元水ではなく深部からの高温高圧の地熱流体で補充される場合もある。 |
会場: | 発電用の井戸から有毒ガスが発生することはないのか。 |
演者: | 硫化水素ガスが発生する可能性があるが、現実の地熱発電所では許容される基準以下となっている。ただ、濃度が基準以下であっても、硫化水素臭が問題となる場合は、脱硫装置が付けられる。脱硫装置が付けられているのは日本では2発電所のみである。 |
演者: | 究極の地熱発電は、マグマ溜まりから熱エネルギーを取り出し、発電に利用することである。一方、火山へのエネルギーの蓄積を減らし、火山防災に役立てられる可能性がある。現在は、その一歩手前として、マグマ溜り(5~6km以深)と地熱貯留層(1~3km深。現在利用されている)の間にある「超臨界水貯留層」(4~6km深、400~600℃、数10MPa)からエネルギーを取り出すことが次世代エネルギーとして研究開発されている。 |
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