開催概要: | 「最近の助成研究から」と題して、東京地学協会調査・研究助成金による研究にその後の研究も加えて研究成果をお話しいただいた。 | ||||||||||||||||||||
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日時: | 令和元年12月29日(木)13:00から17:20まで | ||||||||||||||||||||
場所: | 私学会館(アルカディア市ヶ谷)6階霧島西の間(東京都千代田区九段北4-2-25) | ||||||||||||||||||||
参加者数: | 35名 | ||||||||||||||||||||
講演内容: |
講演1
「柏崎西方の円錐台地形が泥火山なのか判断する」 講演者:蛭田明宏(明治大学) 日本海上越沖は新潟-神戸歪集中帯に属しており、同じ構造体の陸上では泥火山の存在が知られている。柏崎西方の水深550mに位置する円錐台地は、その形状から、これまで海底では見つかっていない泥火山に該当する可能性がある。泥火山は,地震によって噴出活動が誘発されることがあり、浸食の少ない海底ではそのような過去の活動履歴が残りやすく、歪集中帯の地中圧力変化の研究につながるので、この円錐台地を調査した。 ▲調査位置と海底地形 サブボトムプロファイラーによる地下構造の調査では、円錐台地は周りを外側に傾斜して成層した堆積物でとりまかれていた。円錐台地の部分が突き上げるような動きをしたことが想定される。 水中ドローンによる地形調査では、海底は起伏に富んでいたが、活動中の泥火山に特徴的な、泥が流れた痕跡、泥の噴出やガスバブルの漏えいは見られなかった。一方、板状のメタン由来炭酸塩が所々で露出し、バクテリアマットも点在していた。ガスプルームは見られないが、ガスハイドレートが海底面付近に分布する特異な場所であった。 ▲海底写真 グラブサンプラーで台地頂部の平坦面上堆積物の一部を回収し分析したところ、炭素同位体比が-50 ‰VPDB程度を示すメタン由来炭酸塩を回収した。この炭酸塩がセメントした堆積物には、1試料を除き、寒冷期の珪藻化石が含まれていた。温暖種が含まれていた1試料は、ウラン-トリウム年代が12万年前に形成したことを示した。台地頂部末端の堆積物には、30万年前に絶滅した珪藻化石が含まれていた。海底では、急斜面や崩れた堆積物の塊が観察され、一部が隆起していると思われるが、その高低差が小さく、隆起によりこれらの古い物質が表層に移動したとは説明しにくい。下から堆積物を押し上げる力が働いている場所で、深部の泥が表層付近に移動してくる泥火山的な活動が一時的に起こっていた可能性がある。この原因を特定するために、調査を継続している。
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講演2
「地域労働市場からみた国際山岳リゾートの持続性について−カナダ、ウィスラーを事例に−」 講演者:小室 譲(筑波大学・大学院) 欧米諸国における国際山岳リゾートでは、昨今のツーリズムの発展を背景に、労働力需要が拡大しており、リゾート産業の持続的発展という観点から、外部労働力の重要性が高まっている。そこで、北米を代表する国際山岳リゾート、ウィスラーを事例に、そこでの地域労働市場の持続性に関して、とくにツーリズム産業における外国人労働者に着目して検討した。 ▲研究対象地域図 ウィスラーは、カナダで初めて州政府主導でリゾート自治体が設立された場所である。初期から自治体主導で環境と経済双方の持続性を重視した観光開発が進められた。夏はマウンテンバイク、冬はスキーが盛んな高級志向のリゾートで、1970年代から労働集約的な観光産業が発達しているが、春と秋は客が少なく繁閑リズムがみられる。定住人口11,845人のうち永住権移民人口が20.6%、そのほかワーキング・ホリデービザなどの非永住権移民が存在する。 現地調査の結果、ウィスラーはカナダの積極的な移民政策のもとで外国人労働者を取り込んだ地域労働市場が存立していることがわかった。外国人労働者は、定住労働力の供給源となって多様なスキル需要に対応するとともに季節や時間帯の繁閑リズムに柔軟に対応する労働力として、地域労働市場の基盤となっている。これを滞在形態、就労目的及び雇用形態により分類すると、滞在形態は、1.市民権型、2.永住権型、3.就業ビザ型、4.ワーキング・ホリデービザ型、5.就学ビザ型の5種類、就労目的は、1.資格、経験獲得(キャリア構築)志向、2.自己レクリエーション志向、3.永住権・賃金獲得志向の3種類、雇用形態は、1.正規雇用、2.季節雇用の2種類に分けることができた。 これらの分類の組み合わせとして、地域労働市場は、①語学や職業スキルを磨き、昇進や転職、起業を通じて永住ビザを獲得して定住する過程、②ワーキング・ホリデービザをもち季節労働力として発地国や次の移動先との間を循環する過程という、主に2つの過程にもとづいて持続性を有していた。 ▲ウィスラーにおける労働者の滞在形態・雇用形態相関図
講演3
「八幡平地域の湿地の形成と発達を地形から考える」 講演者:佐々木夏来(東京大学) 山岳湿地は、気候変動と地形発達の二つの観点からその多様性が生じ、これにより日本の山岳湿地の特性が規定されている。しかし、後者の観点からの研究はあまり進んでいなかったので、地形学的な視点から山岳湿地の多様性を追求することを試みた。 八幡平地域の湿地(湖沼や湿原)は、噴火口や緩やかな火山原面上だけではなく、地すべり地内にも形成され、多様な形成要因の湿地が共存していることが特徴である。これまで、湿地堆積物は気候変動や植生復元のプロキシとして利用されてきたが、湿地そのものを対象とした地形学的な研究は非常に少ない。そこで、火山原面上と地すべり地内で複数の掘削調査をおこない、湿地の成立要因と発達過程について検討を重ねてきた。 ▲図1:日本の自然環境と湿地分布および八幡平火山群の位置図。 ▲図2:八幡平火山群における湿地分布と調査対象地域。 火山原面上の安比高原湿地群は,茶臼岳から北流した溶岩台地末端部の皿状凹地内に形成され,多数の小規模湿地で構成される。その全貌を明らかにするため、UAV(unmanned aerial vehicle//無人航空機)で安比高原湿地群全域を撮影するとともにジオリファレンスポイントをGNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)で測量し、SfM(Structure from Motion/多視点画像三次元復元)ソフトウェアを用いて数値表層モデルとオルソ画像を作成した。オルソ画像の色調変化と微地形から湿地を判読した結果、調査対象範囲内に136の湿地を認定した。 ▲図3:安比高原湿地群の湿地分布(基図はSfMソフトウェアで作成したオルソ写真)。 湿地は皿状地形内の東側に多く、付近を河川が流れるために地下水面の低下が推察される西側で湿地面積が小さい傾向が認められた。個々の湿地は小規模凹地内に形成され,そのうちいくつかは不明瞭なチャネルネットワークで接続されて,安比川に合流する谷へ続くことが観察できた。したがって,湿地群のある皿状地形には,周辺斜面からの浅層地下水が滞留し、小規模凹地で地下水位が相対的に高くなるために湿地群が形成され、安比川の源流の一つとなっていると考えられる。火山原面上の安比高原湿地群は、浅層地下水面と地表のわずかな凹凸面と関係で湿地が成立し、複数の湿地で同じような発達を遂げていた。 一方、菰ノ森地すべり地では、湿地の分布が地すべりに特徴的な地形に規定され、発達過程は土塊の侵食や解体の影響が反映されて様々であった。ここでは、全体が湿原化した大谷地とまだ水域が残る長沼を調査した。大谷地は、標高1670メートル、湿地面積0.04平方キロメートル、南側に平坦地があり、不明瞭ながら流入・流出路がある。滑落崖と直交方向に3個所で湿地堆積物を掘削し、テフラ分析、放射性炭素年代測定、強熱減量の結果から発達史を復元した。その結果、7600年前頃池が出現し、恐らく斜面変動により5500年前頃池が拡大、3300年前頃湿原化したことがわかった(Sasaki and Sugai, 2018)。長沼は、標高1106メートル、湿地面積0.07平方キロメートル、南北に延びる閉塞凹地に形成され、北側に水域を残し、南側が湿原化し、流入・流出路がない。湿原部分の2か所(NN1:水域側,NN2:縁辺側)で湿地堆積物を掘削し、同様な分析を行ない、発達史を復元した。その結果、長沼は7000年以上前に池が出現し、徐々に水深が浅くなり、周辺斜面からの埋積により徐々に水深が浅くなって約2000年前に湿原化したことがわかった。大谷地と長沼ともに同一の大規模地すべり活動によって形成されたと考えられるが、その後の局所的な地形変化や排水路の有無によって両者の発達速度や発達過程は異なっていた。 ▲図4:菰ノ森地すべり地の地形と湿地分布。Sasaki and Sugai(2015)を改変。 湿原は、水がたまる形があること(凹地の存在)とそこに水があること(涵養水の存在)で成立している。凹地の存在についてはあるていど研究が進んだので、今後は涵養水の変動についても研究を進めていきたい。
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