地学クラブ第284回講演会報告
図1.環境庁パンフレット(三田ほか,1996)から抜粋。
図2.三田(2003)の図(モノクロ印刷)を、カラー表示。A:積雪期の湯の滝を調査する演者、B:MnO2鉱物粒子の走査型電子顕微鏡像、C:糸状藻類(藍藻)とMnO2鉱物粒子(青く染色した)の位相差顕微鏡像、D:純粋なマンガン酸化細菌株(染色した)の顕微鏡像。
平成26年3月15日(土)14:00~15:30に東京地学協会講堂で、三田 直樹氏(産業技術総合研究所)による『微生物がつくり、人が護る:「天然記念物“オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地”」と「錦沼」』の講演が行われました。内容は、以下のとおりです。
はじめに「マンガン(Mn)と鉄(Fe)について」と題して、一般にあまり馴染みのない元素についての基本的なレクチャーがあり、乾電池や鉄鋼などに関わるレアメタルとしての重要性を解説していただきました。次に『深海に「生きた鉱床【重金属:硫化物、MnO2、Fe2O3】」を求めて』と題し、30数億年前のプレカンブリアン時代に誕生した光合成微生物(藍藻など)が、酸素ガスO2を生み出し、O2は水に溶存する鉄イオンFe2+やマンガンイオンMn2+と結合し、赤い酸化鉄Fe2O3や黒いMnO2の鉱物が沈積させたことを紹介されました。これら世界中に存在する『巨大鉱床』は海底の温泉で誕生したとみられていましたが、成因は謎でした。1970年代に深海の火山で発見された熱水鉱床は、“硫化物や酸化物などの鉱物”が生成中の『生きた鉱床』として脚光を浴びました。演者は、1987年から地質調査船「白嶺丸」で活動域を探索し、MnO2を造る「Mn酸化細菌」を培養・分離した経緯を紹介されました。
次がいわば本論で、「陸の“生きた鉱床”との遭遇。オンネトー湯の滝、オンネトー錦沼」で、2000年9月6日に国の天然記念物に指定された当地(阿寒国立公園/足寄町)は、黒い二酸化マンガンMnO2の鉱物(轟石など)が微生物作用で生成中の「世界でも稀な場所」で、1950年代に約3,500トンのMnO2が採掘されたこと、針谷宥教授(北海道大学)から「北海道にMnO2が沈澱中の世界で稀な場所があり、成因は未解明」と聞き、1989年に「Mn酸化細菌の作用では?」と仮説をたて、湯の滝や付近の錦沼(Fe2O3生成)の現象解明を試み、共同研究を続けてきた経緯と成果を分かりやすく説明されました。
最後に、研究成果を発信するだけでなく、環境省や地元自治体などの諸機関と恊働し、現象の保護(温泉としての利用と細菌の保存の共存・天然記念物指定)や生涯教育(体験型の総合自然教育・ジオパーク活動ほか)にも積極的に取り組んでいる様子をご紹介いただきました。
また、以下のような多くの配布資料:
1)環境庁 自然観察路ガイド“阿寒国立公園の不思議な現象:湯の滝と錦沼”(三田ほか,1996)
2)地質ニュース“カブトガニは海底熱水活動の探査プローブ?”(三田,1993)
3)地質ニュース“プレカンブリアン・パーク「湯の滝」へようこそ”(三田,1999)
4)地質ニュース“特別展「生きている二酸化マンガン鉱床オンネトー湯の滝”(奥山・小澤,1995)
5)地質学雑誌“口絵:生きている酸化マンガン鉱床「湯の滝」”(三田ほか,1994)
をいただきました。
更に、会場では茨城県自然博物館の首席学芸員の小池渉氏からも「天然記念物指定の直後に当館で開催された第20回企画展でシンボルだった湯の滝に関する、貴重な展示資料と解説資料」を展示していただきまして、共同研究の実感が参加者に伝わりました。
これらによって講演を聞きっぱなしでなく、より理解する一助とすることができました。ありがとうございました。
出席者数36名 (文責:加藤碵一)
文 献
- 三田直樹,1993,“カブトガニは海底熱水活動の探査プローブ? − 生体防御反応を応用した迅速・超高感度探査法 –”.地質ニュース472号(1993年12月号),13-23.
- 三田直樹,1999,“プレカンブリアン・パーク「湯の滝」へようこそ – 微生物がつくるマンガン鉱床が語る地球環境学”.地質ニュース535号(1999年3月号),表紙・口絵・本文7-14.
- 三田直樹,2003,“温泉で微生物が活躍 − 天然のマンガン処理プラント −”,化学工学,第67巻,第2号,pp.100-102.
- 三田直樹・針谷宥・臼井朗・丸山明彦・東原孝規・中島健・金井豊・三浦裕行・伊藤孝,1994,“生きている酸化マンガン鉱床「湯の滝」”.地質学雑誌,第100巻,第10号,口絵XXV-XXVI.
- 三田直樹・臼井朗・金井豊・Kevin FAURE・三浦裕行,1996,“原始地球にタイムトラベル − 阿寒国立公園の不思議な現象:生きている鉱床「オンネトー湯の滝と錦沼」”,自然観察路ガイドシリーズ,環境庁阿寒湖管理官事務所 発行.2p.
- 奥山(楠瀬)康子・小澤泰子,1995,“地質標本館だよりNo.34:「生きている二酸化マンガン鉱床 – オンネトー湯の滝」–夏期特別展”.地質ニュース485号(1995年1月号),64-65.