第307回地学クラブ講演会「埋もれた戦時期地球観測データとその利用」のお知らせ
第307回地学クラブ講演会(7月)の予定が決まりましたのでお知らせします。一般(非会員)の方々も気軽にご参加下さい。多数の方々のご来場をお待ちしています。
日 時:平成30年7月20日(金)14:00 ~ 15:30
場 所:東京地学協会地学会館2階講堂(東京都千代田区二番町12-2)
交 通:東京メトロ麹町駅5出口を出て左へ徒歩1分
日本テレビ向い JR市ヶ谷駅から徒歩7分、四ッ谷駅から徒歩9分)
演 題:埋もれた戦時期地球観測データとその利用:外邦図・空中写真・気象観測資料の探索から
講演者:小林茂(大阪大学名誉教授・大阪観光大学)
要 旨:
地球環境問題がグローバル・イシューとしてつよく意識されるようになって、その変動に関するデータが求められている。
東アジアや東南アジアの景観変動の資料として2000年頃から外邦図に関心を持ち始め、2002年から科研費を得て多くの方々と本格的な調査を開始した。これによってまず東北大・京大・お茶大の外邦図目録が刊行された。駒澤大・立教大の目録がこれにつづき、最近になって筑波大の歷史人類学専攻資料室所藏外邦図簡略目録も登場するに至っている。また2005年には東北大学がその画像の公開を開始し(外邦図デジタルアーカイブ)、これに京大・お茶大、さらにわずかに過ぎないとはいえ阪大の外邦図の画像が加わることになったのは、目録作製を通じて外邦図の書誌データが整備されたことを背景としている。
このような動きの一方で、アメリカ議会図書館での調査を2007年から本格化した。日本の大学の外邦図コレクションのほとんどは終戦時に陸軍参謀本部(市ヶ谷)にあった当時日本陸軍現用の地図に由来するため、新しいものが多く、明治・大正期の古い外邦図を求めての調査であった。すでに2002年に故久武哲也甲南大教授らが同館地理・地図部を偵察してその日本軍関係資料の概要を把握していたが、2008年には1880年代に日本陸軍の若手将校が中国大陸と朝鮮半島について作製した手描き測量原図(約500枚)を発見し、未知の外邦図として集中して調査に取り組んだ。
アメリカ議会図書館には、何名もの日本人ライブラリアンがおられ、あわせて地理・地図部のライブラリアンの皆さんの協力も得ての調査であったが、その間アメリカ国立公文書館(NARA)Ⅱ収蔵の資料もあわせて探索し、一方で空中写真、他方で気象観測資料にも視野が広がった。空中写真は日本軍によるものだけでなく、広大な地域をカバーするアメリカ軍撮影のものに圧倒された。このなかには1960年代のU-2機による中国大陸の高解像度写真も含まれている。また気象観測データは日中戦争期~第2次世界大戦期の陸軍気象や海軍水路部(のち気象部)が中国大陸や東南アジアで得たもので、多くはガリ版刷りの月報である。この中には航空戦を反映して、測風気球による気流観測はもちろん、ラジオゾンデによるデータも含まれている。この調査は最近は台北の中央気象局にもおよび、戦時期のデータのギャップが埋められる可能性がみえはじめた。
第2次世界大戦終結まで日本軍が行った測量、空中写真撮影、さらに気象観測に関するデータは、現在の日本の関係官庁の所管にふくまれていない。またその職員の多くも、そうした資料に関心を持っていないと聞いている。しかし、地球環境の変動にアプローチするには、そうした見捨てられたともいえるデータを掘り起こすことも必要ではないだろうか。巨大組織の作ったデータに立ち向かうにはあまりに弱体であるが、ここ十数年の探索作業とその成果について報告し、その意義について考えてみたい。